闇へ続く石の回廊――コーンウォールの「ホグー」

 


🕳️ 闇へ続く石の回廊――コーンウォールの「ホグー(Fogou)」

――英国の土の下に眠る、用途不明の謎の地下構造物とは?


🧭【はじめに】発見のきっかけ・注目ポイント・背景

■ 発見と再注目

コーンウォール地方の丘陵地帯や古代の集落跡を調査中の考古学者たちは、土中に石を積み上げた奇妙な構造物があることに気づいた。初めて本格的に記録されたのは18世紀後半。農地の整備や考古学調査中に露出したこの地下構造物は、地元では「fogou(ホグー)」、つまりコーンウォール語で「洞窟」と呼ばれていた。

■ 何がすごいのか?

  • 全長10m~30m以上の地下通路が完全に石積みで造られている
  • 天井も石の“コーニッシュ・スラブ”で蓋をされた完全な地下構造
  • 明確な用途が未だ不明(宗教儀式?貯蔵庫?避難所?)
  • 英国内でもほぼコーンウォール地方にしか存在しない極めて限定的な遺構

■ 背景と文化的文脈

コーンウォール地方は、ケルト文化が色濃く残る地域であり、fogouは**鉄器時代(紀元前500年頃~紀元後100年頃)**の集落跡とともに発見されることが多い。よく知られる「クレイグ・ナ・ドゥ」などのフォグーは、その神秘性から現地の伝承や迷信の対象ともなっている。


🧱【主なホグーの構造と特徴】

● 概要

  • 入口は狭く目立たない
  • 通路は直線型かL字型、あるいは湾曲
  • 側面と天井はすべて手積みの石で構成
  • 一部には“副室”や“逃げ道”と見られる分岐通路が存在

🔍【主なホグー一覧と特徴】

以下、現存するホグーをいくつかピックアップし、その謎と魅力を解説します。


1. クーン・ホー(Carn Euny Fogou)

■ 概要

  • 場所:ペンザンス近郊
  • 全長:約20m
  • 巨大な副室付き。現在最も保存状態の良いホグーの一つ

■ 物語

クーン・ホーの入り口は、野原の中にひっそりと開いている。内部は驚くほど広く、側面には副室へ続く通路がある。この場所を訪れた多くの人が、「何かを感じる」と語る。儀式的な雰囲気が強く、考古学者の間では「コーンウォールの地下神殿」とも呼ばれている。

■ ちなみに

近くには鉄器時代の集落跡があり、住居跡とホグーが共存していることから、住民の生活と密接に関係していた可能性がある。

■ 考察

副室の存在、広い空間、そして外部との隔絶性から、宗教的儀式や通過儀礼の場として使用された説が有力。しかし、冬場でも内部温度が安定しているため、穀物やチーズなどの貯蔵庫説も根強い。


2. トレガース・ホグー(Tregeseal Fogou)

■ 概要

  • 場所:セント・ジャスト付近
  • 特徴:L字型の狭い通路構造、現在は立入禁止

■ 物語

かつては冒険家たちが中に入って「体が冷え切った」と記録しているほど冷気が満ちていたという。数々の“奇妙な音”や“光の反射”が記録され、地元では精霊の通り道と信じられていた。

■ ちなみに

1940年代以降、周辺の農地開発で大部分が破壊された。現在は封鎖されており、見ることは困難。

■ 考察

冷気と音響の特徴から、心理的・感覚的な儀式の場と考える説もある。狭さと曲がりが“非日常”を演出していた可能性。


3. ポルカロウ・ホグー(Porthkerry Fogou)

■ 概要

  • 破壊されており、詳細不明
  • 文献と地元民の証言により存在が記録されている

■ 物語

農作業中に地下に落ちた牛が“空間に吸い込まれるように消えた”という伝説が残る。翌日、牛は近くの崖のふもとで発見されたという。

■ ちなみに

実際には風化した地下通路が崩れたことで牛が落下したと推定されているが、地元では今も「ホグーに連れて行かれた」と語られている。

■ 考察

こうした逸話は、fogouが**“異界への入口”としての象徴性**を持っていたことを示唆する。


🌀【ホグーの用途に関する4つの主説】

  1. 食糧・物資の貯蔵庫説

    ▶ 地下の一定した温度は保存に最適。実用的な説だが、副室や複雑な構造と合わない点も多い。
  2. 隠れ家・避難用シェルター説

    ▶ 侵略や争乱時の避難所という考え。実際には入口が狭すぎる、空気の流れが悪いなどの問題もあり疑問視されている。
  3. 宗教儀式・通過儀礼の場説

    ▶ 霊的・宗教的な体験を得る場。内部の静寂さ・冷たさ・暗さがその“非日常性”を強調している。
  4. 死者や祖霊のための通路説

    ▶ ケルト文化では「地下=死後の世界」の象徴。ホグーを“あの世とこの世を繋ぐ道”と捉える宗教的解釈。

🧙‍♂️【ちなみに:ケルトと地下世界】

  • ケルト神話では「地中の国(アンヌーン)」という死後の世界が存在する
  • コーンウォールの地名や伝承には“地下の妖精”や“精霊”に関する言及が多い
  • ホグーもまた、**自然と人間の境界を超えるための“通路”**だったのかもしれない

🔮【考察まとめ:ホグーの魅力と現代へのメッセージ】

ホグーはただの地下倉庫ではない。石と土に包まれたその空間には、人類が古代から持っていた**「境界を超える場」への憧れ**が詰まっている。宗教、生活、防衛、死生観――あらゆる要素が交差し、語られないまま残された“沈黙の構造物”こそが、fogouの最大の魅力なのだ。

現代の私たちがホグーに魅せられるのは、「忘れられたものに潜む物語」への渇望なのかもしれない。