893点見つかっても解けない。ナスカの地上絵は何を伝えたのか
ペルー南部のナスカの地上絵には、鳥、サル、シャチ、人間、切断された首、リャマ、何百本もの直線と台形が刻まれている。2025年までに確認された具象地上絵は893点。さらにAIが示した500地点以上が未踏査のままだ。誰が、誰へ、何を伝えようとしたのか。
奇妙なのは、数が増えるほど一つの説明から遠ざかることだ。巨大な野生動物は直線と台形の網へ、小さな人影や首級は古代の小道へ集まる。同じ砂漠に重なる二つの図像世界は、本当に同じ目的で作られたのか。
発見数が倍増すると、「一つの答え」が崩れた
有名なハチドリやサルだけを見ていた時代、地上絵は一つの壮大な計画に見えた。だがAI支援調査が小さく薄い図像を大量に掘り起こすと、同じ砂漠に目的の異なる地上絵が重なっている可能性が浮かんだ。
2024年9月23日に公開されたPNAS論文は、約90年間で知られていた具象地上絵430点に対し、2022年9月から2023年2月の現地踏査で303点の面描型を確認した。論文時点の内訳は、大型の線描型50点と小型の面描型683点、合計733点である。
その後、山形大学が2025年7月に発表した2023〜24年の現地調査では、248点の新たな地上絵が確認された。しかし、そのうち具象地上絵は160点。人間41、首級31、リャマ21、その他の動物66、留めピン1などが具象として数えられた。残りには幾何学図形81点とその他が含まれる。733に160を加えた893が、この発表時点の具象総数である。
さらに「候補」は「発見」ではない。2025年発表の時点で、AIが優先候補としたうち500点以上が未踏査だった。自然の礫の並び、車跡、近現代の改変が混じる以上、人が現場で制作痕を調べるまで、候補は数え上げの外に置かれる。
同じ「248」が、別々の数字として現れる
2024年論文にも248という数字が現れる。論文の6か月踏査では、1,309の有望候補のうち341地点を訪れ、968候補が未踏査で残った。研究チームは、三つの優先ランクごとに現地確認の成功率を当てはめ、未踏査候補の中に少なくとも37、66、145の合計248点の具象地上絵があるだろうと推定した。これは将来確認される可能性のある予測値であり、その時点の発見数ではない。
2025年発表の248点は、実際に2023〜24年の現地調査で新たに確認された地上絵の総数で、内訳の具象図は160点だった。数字が偶然同じでも、推定した未確認数と、現地で確認した新規数は異なる。調査時期が続くため一部候補の関係はありうるが、公開資料だけから両者を一対一対応させることはできない。
この違いは、予測と検証を分ける良い例である。予測は踏査計画と必要人員を見積もるには役立つ。だが、公的な確認数へ移すときは、現地で地上絵と認定され、具象か幾何学かを分類した後の数字を使わなければならない。
893は答えの数ではない。「ナスカ台地で確認された具象地上絵」の現在地だ。直線、台形、三角形、小道、未踏査候補まで含めれば、砂漠に残された記号体系の全体像はいまも数え終わっていない。
893点は、893枚の「絵」ではない
一つの人型のそばへ首級やリャマが並び、道を進むと別の図像が現れる。一点ずつ数えれば別々の絵だが、歩く順番で見れば一続きの場面かもしれない。数え方そのものが、失われた物語の読み方を変える。
2024年論文は、幾何学地上絵を線状と面状に、具象地上絵を線描型と面描型に分けた。数キロメートルの直線は幾何学の線状、巨大な台形は幾何学の面状、サルは具象の線描型、石を面と輪郭に集めた人型は具象の面描型に入る。「線が一本あるから一点」と「動物の輪郭が一つだから一点」は、分類学的に同じ箱ではない。
面描型は複数が50メートル以内に集まり、人と首級、人とリャマのように一つの場面を作ることがある。論文はそれを「図像群」として扱いつつ、個別の輪郭は別々の具象地上絵として数えた。そのためAIが一つの輪郭だけを指し、現地で周囲の複数図像が見つかると、一つのAI候補地点から発見数は複数増える。これは水増しではなく、個別図像と空間的な場面を両方記録するための数え方である。
一方、新たに確認された42点の幾何学地上絵は、2024年論文の303点とは別に補足資料へ記載された。これを303に加えて「345の具象図」と言うこともできない。図像を記事化するときは、「一点の輪郭」「一つの図像群」「一本の直線」「一面の台形」を区別し、何を分母にしたかを残す必要がある。
個別図像と図像群を分けて記録するのは、数字を整えるためだけではない。複数の図像が一つの道でどんな順番に現れるかを復元できれば、文字を持たなかった社会の「読む順路」が見える可能性がある。
地上絵は、無人の砂漠に描かれたのではない
空撮写真は図像だけを切り取る。だが地表へ戻すと、その周囲には河谷、集落、古代の小道、儀礼の場、山と水の流れがある。謎の舞台は空ではなく、人が暮らし移動した地上だった。
ユネスコ世界遺産センターは「ナスカとパルパの線と地上絵」を1994年に登録し、世界遺産のプロパティを75,358.47ヘクタール、約753.58平方キロメートルとしている。約450平方キロメートルという数字は、地上絵が集中する乾燥台地の概略説明として使われる。両者を同じ法的境界として引用しないことが大切だ。
ユネスコの簡略説明は地上絵を概ね紀元前500年から紀元後500年に置く。顕著な普遍的価値の詳しい説明では、南海岸で社会が栄えた広い文化史を紀元前8世紀から紀元後8世紀とし、地上絵の編年を中・後期形成期の紀元前500年〜紀元後200年から、地域発展期の紀元後200〜500年へ区分する。これは「すべての線が同時に作られた」という意味ではない。地表の前後関係、図像様式、土器片、絶対年代測定を組み合わせ、地点ごとの時間を読む必要がある。
この広い範囲を「砂漠の空白」と呼ぶと、古代人の生活を消してしまう。リオ・グランデ・デ・ナスカ水系の河谷に人々が住み、農耕し、土器を作り、カワチの儀礼センターへ移動した。台地は、居住に向かない無人地であると同時に、社会集団が境界、水、神、記憶を表現できる共有の舞台だった。
巨大動物は直線網へ、人影は小道へ集まる
2024年の303点発見が突きつけた最大の謎は数ではない。大型図像と小型図像で、描かれたものも置かれた場所も違った。同じ「ナスカの地上絵」という名の下に、二つの視覚世界が隠れていた。
線描型
- 作り方
- 暗色の表面礫を両側へよけ、明るい地表を細い輪郭として続ける。
- 規模
- 2024年論文の50点は平均長約90メートル。
- モチーフ
- 64%が野生動物。ハチドリ、サル、クモ、シャチなどの有名図像が含まれる。
- 立地
- 直線・台形の幾何学網から平均34メートル。
面描型/レリーフ型
- 作り方
- 礫を除去するだけでなく、暗色の石を輪郭や面に集めて色差を作る。
- 規模
- 2024年論文の683点は平均長約9メートル。
- モチーフ
- 81.6%が人、首級、家畜など人間活動に関わる。
- 立地
- 曲がりくねった古代の小道から平均43メートル。
これらは「二つの民族が作った」という単純な分割ではない。時代の重なり、制作集団、見せる相手、使う場面の違いを、統計的に見えるようにする分類である。平均距離は因果関係の証明でもない。それでも、すべての地上絵を一つの天文台、一つの水路図、一つの神への絵で説明することは難しくなった。
「平均43メートル」は、小道の意味を証明した数字ではない
距離分析には範囲と除外条件がある。ナスカ台地の曲がりくねった小道網はまだ全てが地図化されておらず、2024年論文は最寄りの小道から500メートルを超える図像をこの分析から外した。つまり43メートルは、記録された道に近い分析対象内の図像群についての平均値である。それを「すべての面描型は道から正確に43メートル」と読み替えてはいけない。
可視性も二段階で読む。単独の面描型はすべて小道から認識できたが、図像群の全要素が同時に見えるとは限らなかった。道からまず一つが見え、近づくと次が現れる。完成画を一望するより、歩くたびに場面が開く仕掛けに近い。だが、その順番と古代の語りを記した文字は一行も残っていない。
作り方は単純。それでも目的だけが消えた
地上絵は未知の機械で焼きつけた痕跡ではない。赤褐色の石を数センチ動かし、下の明るい地面を露出させる。作る方法は再現できるのに、なぜ何世代も砂漠へ描き続けたのかは再現できない。
地表の風化礫には「砂漠ワニス」と呼ばれる暗色の被膜ができる。それを取り除くと、まだ風化の少ない明るい地面が露出する。低降水、地表を大きく乱す農耕がほとんどないこと、風が細かい砂を運び去ることが、千年単位の色差を残した。
大型図像の設計には、小さな原図の比例を拡大する格子、中心点からの距離と角度、杭と紐、複数の目標点が使える。木材の杭が確認された例もあるが、すべての図像の作業手順書が出土したわけではない。実験は地上の測量で巨大図像を作れることを示すが、個別のハチドリがどの手順で作られたかまで確定しない。
杭と紐で巨大図像を作れる。だから宇宙人も失われた超技術も必要ない。だが「どう作ったか」を解いた瞬間、「そこまでして、誰に見せたのか」という本当の謎が残る。
千年近く描き足されたなら、「作者」は誰なのか
早い斜面図像、ナスカ期の大型線描型、直線と台形、後世の横断と再使用。台地は一人の支配者が完成させた作品ではない。古い線を見ながら、別の世代が新しい線を重ねた巨大な記憶装置だった可能性がある。
面描型は、図像学と制作技法から初期ナスカ期、またはそれ以前の後期パラカス期と関連づけられる。斜面に人や動物を配し、向かいの小道や広場から見る構成は、平地の巨大線が発展する前の表現伝統を示す。
線描型は図像様式から概ねナスカ期、紀元100年頃から紀元650年頃に置かれる。シャチとサルの地上絵の周辺で初期ナスカ期、50〜300年頃の土器片が確認されたことは、その時期に使用されていた根拠になる。ただし土器片は、線を引いた正確な日付を印刷したラベルではない。
RinkとBartollは、パルパ近郊のSan IgnacioとSacramentoにある幾何学線で、石を動かしたときに埋もれた石英の光ルミネッセンス年代を測り、400〜650年頃の制作を示した。これは絶対年代を直接探る重要な方法だが、二地点の結果をすべてのナスカ線へ拡張することはできない。
さらに2024年論文は、ナスカ台地の一部で少なくとも初期ナスカ期から15世紀のイカ期まで土器片が分布すると整理する。後世の人が古い線を歩き、別の線で横切り、新たな儀礼に取り込んだ。最初の意味を知らない世代さえ、線を使い続けたかもしれない。作者が一人でないなら、目的も一つとは限らない。
AIが見つけたのは、答えではなく500以上の未確認地点だった
AIが古代の暗号を解いたわけではない。砂礫のむらから「人為痕かもしれない場所」を拾い、考古学者が歩く順番を変えた。その結果、既知の図像は急増し、まだ誰も確かめていない候補も500地点以上残った。
この連鎖は突然現れたものではない。1940年代から航空写真を用いた調査が進み、ナスカ台地と周辺で112点の具象地上絵が記録された。2004年には1ピクセル61センチメートルの高解像度衛星画像が導入され、2020年までには台地全体を約10センチメートル解像度で覆う航空写真と、一部の10センチメートル未満のドローン画像が加わった。この間に318点が新たに確認され、そのうち307点は面描型だった。
画像が高精細になるほど、問題は「写っていない」から「写っているが人が全部を見切れない」へ変わった。629平方キロメートルを10センチメートル級で走査すると、地表の小さなまだら模様が膨大になる。AIはこの最後のボトルネック、つまり薄い候補を人の目が見る順番を作るために導入された。
既知地上絵でモデルを調整する
- 機械がしたこと
- 10センチメートル解像度の航空写真を約11×11メートルの窓に切り、既知の面描型の特徴を学習した。
- 人が決めたこと
- 401点の輪郭から368を学習、33を検証に使い、負例と画像拡張の条件を設計した。
- まだ不明
- 現在の学習集合が含まない型や、特定の地形での見落としの偏り。
629平方キロメートルを5メートル間隔で走査する
- 機械がしたこと
- 砂礫模様の中で「面描型らしい」確率を5メートル解像度の地図にし、47,410の候補箱を作った。
- 人が決めたこと
- 農地と市街地を調査対象から除き、確率のしきい値と候補箱の統合条件を設けた。
- まだ不明
- 一つの高確率箱が、一点の地上絵に対応するとは限らない。
考古学者が1,309候補を選ぶ
- 機械がしたこと
- 広大な写真を、人が検討できる優先候補へ絞った。
- 人が確認したこと
- 1,200時間をかけ、地形と人為痕の可能性を判読。高・中・低の三段階に分けた。
- まだ不明
- 画像判読の時点では、真正の地上絵か、どの時代か、何を描いたかは確定できない。
341地点を歩き、ドローンで記録する
- 機械がしたこと
- 踏査順の手がかりを作った。
- 人が確認したこと
- 1,440時間の現地作業で輪郭、石の移動、周辺の図像群を調査し303点を確認した。
- まだ不明
- 空からの輪郭だけでは、古代の呼び名、作者、物語の内容は復元できない。
当局の許可と記録の下で保全対象にする
- 機械がしたこと
- 分布と浸水リスクを広域で重ねる分析に進める。
- 人が確認すること
- ペルー文化省の考古学調査許可、地点記録、法的保護、必要な応急措置。
- まだ不明
- 登録しただけで保全資金、監視員、水害対策が自動的に確保されるわけではない。
この303点のうち、AIが個別の位置を直接提示したのは178点。残る125点のうち66点は、AIが一部を示した図像群の周囲を人が調べて見つけた。59点は踏査中またはAI箱の外の判読で見つかった。「AIが303点を発見」は研究プロジェクト全体の略称としては便利だが、発見の寄与を正確に説明するにはこの内訳が必要である。
スクリーニング1,200時間、現地踏査1,440時間、合計2,640時間。AIは考古学者を消さず、人間の目を「無限の写真」から「消えかけた輪郭」へ向けた。砂漠には、発見前の地上絵がまだ眠っている可能性が高い。
AIが見落とした場所からも、59点が現れた
モデルが主に学習したのは、小さくコントラストが低い面描型である。巨大な線描型は、従来の航空写真の目視調査でかなり分布が知られ、同じ優先課題ではなかった。したがって、モデルが高確率と評価しなかったことは、その地点に地上絵がないことを意味しない。研究中にAI箱の外から59点が見つかったこと自体が、偽陰性と人の面的踏査を残す必要性を示している。
逆に、高確率でも偽陽性はある。風と水が作った自然の境界、地質の色差、現代の車両や踏み跡が、学習画像の一部と似ることがある。モデルはそれを「古代人が作った」と理解しているのではなく、視覚的な似たパターンへ高い確率を与えている。それゆえ、精度を誇るときにも、対象型、調査範囲、しきい値、現地確認率をセットで記す必要がある。
ここで47,410を分母、303を分子にして「精度0.6%」と計算するのも誤りである。候補箱は重複の統合や人の判読を経て1,309地点に絞られ、現地踏査されたのはそのうち341地点だけだった。しかも一つの候補地点から複数図像が確認される場合がある。未踏査968候補には正解ラベルがなく、候補箱と個別地上絵は一対一でもないため、単純な正解率の分母にならない。評価すべきなのは、段階ごとの候補削減、ランク別の現地確認率、箱の外で見つかる偽陰性、投入した人時である。
首級、リャマ、猛禽。道ごとに別の「物語」が並ぶ
空撮観光の主役はハチドリやサルだ。だが古代の歩行者が目にした多数派は、道の脇に潜む数メートル級の人、切断された首、リャマ、鳥、ネコ科動物だった。しかもモチーフは、小道ごとに偏っていた。
2024年論文は、面描型の33.8%が人型、32.9%が首級、14.9%が家畜のラクダ科で、これら合計81.6%が人または人によって変えられた存在を表すと分類した。野生動物主体の線描型とは、かなり異なる図像世界である。
2025年の248点発表は、その分布をさらに一歩進めた。特定の小道には首級と首級を持つ人物が集中し、別の小道には猛禽類、さらに別の道にはリャマが集中したと報告された。研究チームは、道ごとに人身供犠、野生の鳥、家畜というテーマがあり、複数の地上絵の配列で物語やメッセージを伝えた可能性を提案している。
ここで「物語を解読した」と言い切るのは早い。古代の語りを書き留めた文字資料はなく、現代の研究者が首級と分類した輪郭が当時どう呼ばれたかも分からない。確かなのは、一部の道でモチーフが無作為に混じらず、空間的なまとまりを作ることだ。
道から一つの人影が見え、近づくと首級が現れ、さらに先で別の人物へ出会う。その順番が意図的なら、地上絵は空の神だけに届く暗号ではない。歩く人の視界を使って場面を開く、文字のない連続物語だった可能性がある。だが最後の場面も、語られた言葉も失われている。
巨大な線は、神への絵か、人を集める劇場か
小道沿いの小型図像が一人ずつ見せる物語なら、数百メートルの台形と直線網は別の働きをしたはずだ。何百人もの労働を集めた巨大線は、完成画ではなく、人々自身を動かす舞台だったのかもしれない。
2024年論文は、線描型がインヘニオ川谷からナスカ川谷へ広がる直線・台形網に関連し、その南側にカワチ儀礼センターと二つの川が合流する地点があることを示す。南端への巡礼、台形での集団儀礼、野生動物の図像が一連の移動と結びついた可能性がある。但し書き手は、これで他の機能が排除されるわけではないと明記している。
2026年1月に公開されたStanish他の「アンデス地上絵の理論」は、ナスカだけでなくアンデスの長期的変化を比較した。旅行路を印す岩刻画から、斜面の具象図像、後期早期ホライゾンの大規模な直線地上絵群へと規模が変わり、複合政体が人を集める祝宴・市・競争的儀礼の劇場的景観を築いたと提案する。
この2026年説は、個々のハチドリでどんな祝宴が行われたかを直接証明しない。しかし地上絵を「上から見る絵」から、人を集め、歩かせ、共に飲食させ、集団の力関係を更新する公共空間へ変える。もしそうなら、巨大な図像の本当の作品は線そのものではなく、その上で繰り返された、いまは見えない人間の行動だったことになる。
水、巡礼、天文、祝宴。四つの答えが同時に残る
雨を呼ぶ祈り、山と地下水の地図、カワチへ向かう巡礼路、天体の暦、共同体を競わせる祝宴。どの説にも説明できる線があり、説明できない図像がある。真相は一つではなく、時代と場所ごとに変わったのか。
水源・山岳信仰
南ペルー沿岸の乾燥地では、雨、山、河川、地下水は生存と儀礼の中心になる。Johnson、Proulx、Mabeeは地上絵と地下水資源の相関を提案し、Lambersのパルパ研究も水と豊穣、社会的地位の表現を重視する。一部の線と儀礼を説明できるが、すべての動物図像が水路の地図だったとは言えない。
巡礼・儀礼的歩行
カワチへの移動、川の合流、巨大な台形を結ぶ線は、大人数の巡礼を可能にする。RugglesとSaundersが地上踏査で読んだ迷路状線は、完成図を見るためではなく、歩く行為自体が中心だった可能性を示す。ただし、すべての直線が実用的な道だったわけではない。
社会集団と公共儀礼
長さ300〜950メートルの台形群、標準化した直線網、大型図像は、家族数人だけではなく共同体の労働と合意を必要とする。2026年の比較理論が言う祝宴・市・競争的スペクタクルは、その労働を政治経済の中に置く。しかし、ナスカ台地の個別地点で食事の内容まで証明した説ではない。
天文・カレンダー
一部の線が日の出、日の入り、星の方位と近いことはある。しかし直線が膨大で方位も幅広いと、偶然の一致が増える。Rugglesの統計的検討は太陽弧への明確な全体的配向を確認せず、現代西洋の星座と動物図像を自由に対応させる説には文化的根拠が足りない。天文要素を排除するのではなく、個別線と独立した文化資料を要求する。
小道沿いの情報・記憶
2024〜25年の成果が強くした新しい読み方である。人、首級、リャマ、猛禽が道ごとに集中するなら、図像は孤立作品でなく、歩行に沿って読まれる連続的な情報だった可能性がある。ただし、テーマのまとまりと、具体的な物語の復元は別である。
五つの説は相互に両立しうる。山から来る水を願う巡礼が、特定の季節に行われ、台形で共同飲食を伴い、小道沿いの図像で共有すべき物語を思い出したとしても矛盾しない。だが何でも混ぜれば、どんな線も説明できる万能説になる。核心は、どの型が、どの時期に、どの道や広場と結びつくかを一つずつ試すことにある。
空から最も美しく見える。だが古代人は空を飛ばなかった
ナスカ最大の違和感は消えない。巨大な鳥やサルは、上空から見たとき初めて鮮やかな輪郭になる。なのに制作にも利用にも、空を飛ぶ必要はなかったという。では古代人は、完成した全体像を誰の視点で思い描いたのか。
図像全体を一度に見下ろさなくても、比例は地上で管理できる。建築家が大きな建物を毎回空から見ずに建てられるのと同じで、基準点、距離、角度、設計の分割があればよい。制作中の重要な視覚情報は、空撮の完成シルエットではなく、次の杭、線の幅、目標点までの方向である。
面描型の多くは斜面にあり、古代の小道から視認できる。大型線描型は空から最も分かりやすいが、図像の内側を歩き、周囲の直線と台形から接近することができる。「見える」は、完成図を一瞬で視認することだけではない。足で輪郭を追う、隣の人と場所を共有する、集団で線の中を移動することも、モニュメントの経験である。
地球外生命体説や滑走路説が支持されない理由は、夢がないからではない。地上で実行できる制作技法、パラカス・ナスカの土器図像との連続、古代の道と儀礼センターへの分布、地表の重なりが、地域社会の長期的活動で説明できるからだ。飛行体の滑走に必要な補強路盤、一定の平坦性、燃料、機体の物証はない。宇宙人を退場させても、誰に向けた景観だったのかという謎は残る。
ハチドリもコンドルも、名前は後世につけられた
私たちは図像を見た瞬間、「ハチドリ」「コンドル」「クモ」と呼ぶ。だが古代の呼び名は一つも残らない。何を描いたかさえ揺らぐなら、そこへ込めた意味はさらに遠い。
Eda、Yamasaki、Sakaiは2019年、鳥類学の形態比較から有名な鳥の地上絵を再検討した。一般にハチドリとされる図像の長いくちばしや足指、コンドルとされる図像の特徴は、通称と実際の種の対応が必ずしも自明でないことを示す。何を描いたかは、くちばしや足の比例、生息域、土器図像を組み合わせて検討する。
マリア・ライヘが地上絵の測量、清掃、周知、保全へ果たした役割は大きい。一方、天文カレンダーとしての包括的解釈は、統計的な再検討と考古学的文脈の発展により、今日では多機能的な文化景観論の一部に位置づけられる。偉大な研究者を評価することと、その仮説を更新することは矛盾しない。
まだ見つかっていない地上絵が、先に消えているかもしれない
乾燥は地上絵を二千年守った。だが数センチの石の移動で成り立つ遺跡は、車両の一往復、柵の杭、違法な掘削、集中豪雨だけで読めなくなる。AIが候補を示しても、人が到着する前に痕跡が壊れれば発見数には入らない。
ユネスコは、パンアメリカン・ハイウェイがプロパティを横断し、一部の線と図像を損傷したことを記録する。過去の保全報告は、車両交通、違法占拠、農耕・牧畜、採鉱、体系的な監視不足を脅威としてきた。浅い除礫痕に対し、「大規模開発だけ止めればよい」という保全では足りない。
2024年のIGARSS研究は、航空写真、LiDAR地形、水文モデルを組み合わせ、短時間の豪雨で表流が通る地点と地上絵候補を重ねた。気候変動が古代の乾燥一般をすぐに消すわけではないが、集中降雨の回数と強さが増せば、微地形に沿って被害が集中する。発見AIと水害モデルの統合は、「どこから保護するか」の優先順位に使える。
2025年の保護区縮小は、その後撤回された
ペルーの考古学保護区と、ユネスコ世界遺産のプロパティは別の法的境界である。2025年5月、文化省は2004年の考古学保護区5,633.47平方キロメートルを3,235.94平方キロメートルに修正したと発表した。同省は、この修正がユネスコ登録地とその価値を変更しないとした。
しかし批判と訴査を受け、文化省は2025年6月に縮小決定を無効とし、2004年の5,633.47平方キロメートルの周界を再び有効にした。当初の3,235平方キロメートルという数字だけを現行の保護区として載せるのは、2026年現在では古い。
2025年9月には、パルパのHuaraco I地区で違法に設置された17の小屋と柵を文化省が撤去した。2026年5月、文化省はナスカ県ビスタ・アレグレのLa Calera岩絵・地上絵景観へ、更新可能な2年間の暫定保護を付与した。さらに6月17日には、市民通報を受け、Chauchilla地区の保護区域で進んでいた無許可の掘削と柵設置を停止した。現場には7人、コンクリートミキサー、杭、金網などがあったと公式発表は記す。
一方、ペルー会計検査院は2025年末、2015年に作られた保全計画が予算不足で実行されていないと指摘した。法的地図、現地監視、予算、災害予測のすべてがそろわなければ、発見数の増加は保全の成功にはつながらない。ナスカの最後の謎は、過去の意味だけでなく、未発見の証拠が未来まで残るかどうかにもある。
最も有力な答えと、それでも残る核心
AI発見でナスカの謎は小さくならなかった。「一枚の巨大絵は何のためか」という問いが、異なる時期と規模の地上絵群は、誰を歩かせ、集め、何を記憶させたのかという、さらに深い問いへ変わった。
確認できる事実
暗色礫の除去・堆積で作られた。後期パラカスからナスカ期を中心に長期間制作・使用された。線描型と面描型は規模・モチーフ・分布が異なる。2025年発表時点の確認済み具象総数は893点である。
現在もっとも強い像
小さな面描型は小道沿いで少人数に見られ、人間活動の情報を共有した可能性が高い。大型線描型は直線・台形網と共に共同体的な巡礼・儀礼に使われた可能性がある。一部の線には水源、山、天文時期との関係もありうる。
最後まで残る謎
個々の図像の古代の名前、制作を命じた人、作業班の編成、実際に語られた物語、儀礼の順番、どの線をどの時期に再使用したか。未踏査のAI候補500点以上が真の地上絵かどうかも、現地確認なしには分からない。
次に更新されるのは、数字だけではない
未踏査候補の確認が進めば、893は増える可能性が高い。だが次の重要な更新は、最大値だけではない。どの候補ランクがどの確率で真正だったか、AI箱の外でどれだけ見落としが見つかったか、道ごとのモチーフ集中が別の地区でも再現するか、土器片・層序・絶対年代で線と面描型の前後関係を絞れるかが重要である。
特に2025年発表の「道ごとの物語」は、分布のまとまりから出発した強い仮説だが、まだ査読論文の方法・全データ・統計が公開された2024年論文と同じ段階ではない。将来の論文で小道の選定基準、モチーフ分類の一致度、偶然集中との比較が示されたとき、物語仮説の強さを再評価できる。「最新」とは、新しい数字を足すことではなく、証拠の段階を動かすことである。
AIは、人の目では終わらなかった航空写真の確認を、有限の踏査候補へ変えた。その結果、大きく有名な動物よりも、小道の脇にある人間的なモチーフが圧倒的に多いと分かった。この変化は、地上絵の観客を「空の誰か」から「その場を歩いた人々」へ戻す。
ナスカの地上絵は、空へ送った一枚の暗号ではなかったのかもしれない。道を歩く少人数へ見せる図像と、大群衆を集める巨大線が、世代を越えて重なった。誰もその物語を記さなかったからこそ、砂漠そのものが最後の記録になった。
資料と更新履歴
- Sakai, M. et al. (2024), “AI-accelerated Nazca survey nearly doubles the number of known figurative geoglyphs and sheds light on their purpose,” PNAS 121(40).303点、733点、AI学習・候補・現地確認の工程、線描型と面描型の分布の中心資料。査読論文。
- 山形大学(2025)「AI支援の調査で248点新発見、具象的な地上絵の総数893点に」2023〜24年調査の内訳、小道ごとのモチーフ集中、未踏査候補500点以上の大学一次発表。
- ペルー文化省(2024)「ナスカ台地の新たな303図像の発見」ペルー文化省の調査監督、山形大学との協定、古い斜面図像の公的説明。
- UNESCO World Heritage Centre, “Lines and Geoglyphs of Nasca and Palpa.”登録範囲、世界遺産価値、年代、制作方法、道路と保全の公的資料。
- Stanish, C. et al. (2026), “A Theory of Andean Geoglyphs,” Journal of Anthropological Research 82(1), 43–70.旅行路、斜面図像、大規模な線状景観、祝宴・市・競争的儀礼の発展を提案する2026年査読論文。
- Sakai, M. et al. (2023), “Accelerating the discovery of new Nasca geoglyphs using deep learning,” Journal of Archaeological Science 155.深層学習で4点を確認した先行実証。査読論文。
- Lambers, K. (2021 digital edition), The Geoglyphs of Palpa, Peru: Documentation, Analysis, and Interpretation.航空写真測量、現地調査、GISで600点以上を分析したドイツ考古学研究所の学術モノグラフ。
- Ruggles, C. & Saunders, N. J. (2012), “Desert labyrinth: lines, landscape and meaning at Nazca, Peru,” Antiquity 86(334), 1126–1140.地上踏査と層序・タフォノミーから迷路状線と儀礼的行進を検討した査読論文。
- Rink, W. J. & Bartoll, J. (2005), “Dating the geometric Nasca lines in the Peruvian desert,” Antiquity 79(304), 390–401.San IgnacioとSacramentoの幾何学線を光ルミネッセンスで年代測定した査読論文。
- Johnson, D. W., Proulx, D. A. & Mabee, S. B. (2002), “The Correlation Between Geoglyphs and Subterranean Water Resources in the Río Grande de Nazca Drainage.”地上絵と地下水資源の相関を検討したAndean Archaeology II所収の学術章。
- Sakai, M. et al. (2024), “Climatic & Anthropogenic Hazards to the Nasca World Heritage: Application of Remote Sensing, AI, and Flood Modelling.”車両・農地・水害リスクと、LiDAR・AI・流出モデルを統合したIGARSS 2024会議論文。
- Eda, M., Yamasaki, T. & Sakai, M. (2019), “Identifying the bird figures of the Nasca pampas: An ornithological perspective,” Journal of Archaeological Science: Reports 26.鳥の通称を形態から再検討した査読論文。
- ペルー文化省(2025)考古学保護区周界に関する公式コミュニケ2025年5月の縮小決定を無効にし、2004年の5,633.47平方キロメートルの周界を復活した公的資料。
- ペルー文化省(2025)「Huaraco Iの違法占拠地を回復」17の小屋と柵を撤去した保全執行の公的記録。
- ペルー文化省(2026)La Calera岩絵・地上絵景観の暫定保護決定2026年5月の現地確認を受け、ビスタ・アレグレ地区へ更新可能な2年間の暫定保護を付与した公文書。
- ペルー文化省(2026)「Chauchilla保護区域の違法作業を停止」市民通報後の2026年6月17日の査察、無許可掘削・柵設置の停止を記録した公的発表。
- ペルー共和国会計検査院(2025)「保全計画が資金不足で未実施」2015年の保全計画と実施予算の不足を指摘した公的監査情報。
- UNESCO World Heritage Centre (2009), State of Conservation: Lines and Geoglyphs of Nasca and Palpa.車両、違法占拠、農牧畜、採鉱、監視不足を長期的脅威とした公式保全記録。

コメント