
アメリカの 地下の水の網
2400キロ離れた地震で、ネバダの砂漠の洞窟の水が1メートル以上も波打った。
NASA Goddard Space Flight Center from Greenbelt, MD, USA / Wikimedia Commons / パブリックドメイン
観測の概要
アメリカの地面の下には、砂や砂利、石灰岩のすき間に水をためた「帯水層」が広がっている。中西部の8つの州にまたがるハイプレーンズ帯水層は、面積が約45万平方キロメートルあり、畑の灌漑の多くを支えてきた。ところが1950年ごろから水のくみ上げが本格化すると、テキサス州などで地下水位が大きく下がった。ネバダ州の砂漠には、地下の帯水層に口を開けたデビルズホールという洞窟があり、遠くの大地震のたびに水面が大きく揺れる。地下の水がどこまでつながり、どれだけ残っているのかは、井戸と衛星の観測を重ねても、まだすべては分かっていない。
この観測の三つの謎
- 砂漠の洞窟の水は、どこまでつながっているのか
- 地下の水は、あとどれだけ残っているのか
- くみ上げた水は、何年で元に戻るのか
- 代表的な帯水層
- ハイプレーンズ帯水層(オガララ帯水層を含む)
- 広さ
- 約45万平方キロメートル。8つの州にまたがる
- 減った水
- 開発前から2019年までに約3530億立方メートル(約1割)
- 遠い地震に揺れる洞窟
- ネバダ州のデビルズホール(デスバレー国立公園の飛び地)
確定している事実
どこに、どれだけの水があり、どれだけ減ったか。米国地質調査所(USGS)の測定から並べる。
ハイプレーンズ帯水層は、サウスダコタからテキサスまで8つの州の地下に広がる。USGSの2023年の報告によると、2019年にはまだ約29.1億エーカーフィート(約3.6兆立方メートル)の水が取り出せる状態で残っていた。一方で、開発前からの減少は約2.86億エーカーフィート、全体の約1割にのぼる。

- またがる州
- コロラド、カンザス、ネブラスカ、ニューメキシコ、オクラホマ、サウスダコタ、テキサス、ワイオミング
- 平均の水位低下
- 約5メートル(16.5フィート、開発前から2019年まで)
- 州ごとの差
- ネブラスカ州は平均約12センチ、テキサス州は平均約13メートル
- くみ上げの始まり
- 1890年代後半。本格化は1950年ごろ
観測の記録
地下の水は見えない。井戸の水位、洞窟の水面、衛星の重力計で、少しずつ測られてきた。
- 1950年ごろ大規模な灌漑が始まるハイプレーンズ帯水層で、井戸の水による灌漑が一気に広がる。
- 1952年デビルズホールを保護トルーマン大統領が、固有の小さな魚がすむ洞窟の池を国定記念物に加えた。
- 1968年〜1976年くみ上げと最高裁判決約4キロ先の農場の井戸で池の水位が下がり、連邦最高裁は1976年、魚を守るために水位を保つ権利を認めた。
- 1977年沈んだ地面の記録USGSの研究者ジョゼフ・ポーランドが、カリフォルニア州の電柱で1925年から約9メートルの地盤沈下を示した。
- 2011年衛星が地下水の減少を量るNASAの衛星GRACEの重力の観測から、カリフォルニア州セントラル・バレーの地下水の大きな減少が報告された。
- 2022年9月19日メキシコ地震で洞窟が揺れる約2400キロ離れたマグニチュード7.6の地震で、デビルズホールの水が約1.2メートルの高さまで波打った。

ここから謎になる
同じ一つの帯水層なのに、場所によって水の減り方がまったく違う。
USGSの測定では、同じハイプレーンズ帯水層でも、ネブラスカ州ではほとんど水位が変わらず、テキサス州では平均で約13メートルも下がった。井戸によっては約80メートルも下がった場所がある一方、約26メートル上がった井戸もある。地下の水は一つの大きな湖のようにはつながっていない。
テキサス州の井戸
開発前から2019年までの平均の水位低下は44.1フィート(約13メートル)— USGS、2023年の報告の数値をもとに要約
ネブラスカ州の井戸
同じ期間の平均の水位低下は0.4フィート(約12センチ)— USGS、2023年の報告の数値をもとに要約
N遠くの地震を知らせる池
デビルズホールの水面は、何千キロも先の揺れに反応する。
デビルズホールは、砂漠の丘のふもとに開いた小さな割れ目だ。水面は地表から約15メートル下にあり、その下に水で満たされた洞窟が続く。USGSによれば、この洞窟の水の多くは、東にあるスプリング山地に降った雨や雪が、地下の炭酸塩岩の中を長い時間をかけて流れてきたものだ。

2022年9月19日、メキシコで起きたマグニチュード7.6の地震の約5分後、デビルズホールの水が揺れ始め、約1.2メートルの高さまで波打った。2024年12月5日には、約800キロ離れたカリフォルニア州沖の地震で、約60センチの波が立った。池の水は、洞窟の奥の帯水層ごと、地震の波に揺すられている。
この洞窟の壁には、地下水から沈殿した方解石が最大40センチの厚さで積もっている。USGSは、その成分から50万年以上にわたる気候の変化を読み取った。地下の水は、それほど長いあいだ、この岩の中を流れ続けてきた。
宇宙から水を量る
井戸では点しか測れない。2002年からは、衛星が地球の重力の変化から、地下の水の増減を面でとらえ始めた。
観測値と検証
井戸と衛星の数字が、地下の水の減り方を示している。
記録された数字
2011年、ジェイ・ファミリエッティらは、GRACEの6年余りの観測から、サクラメント川とサンホアキン川の流域で失われた水が約30.9立方キロメートルになり、その大半が地下水のくみ上げによると報告した。アメリカ最大の貯水池ミード湖の容量に近い量だ。
地下水を抜くと、粘土の層が水を失って縮み、地面そのものが沈む。サンホアキン・バレーの地盤沈下は、一度縮んだ粘土がほとんど元に戻らないため、帯水層が水をためる力そのものを失ったことも意味している。
説の対決
アメリカの地下の水は、どのようにつながっているのか。三つの見方を比べる。
大陸をつなぐ一つの地下の水脈
遠い地震にデビルズホールの水が反応すること
同じ帯水層の中でも水位の変化が州ごとに大きく違うこと。揺れは地震の波が岩を伝わるもので、水そのものが大陸を流れているわけではない
地域ごとに区切られた帯水層の集まり
テキサス州とネブラスカ州の差、涵養の量の地域差、くみ上げが近くの泉だけを干上がらせること
区切りの境目がどこにあるのかを、地下深くまで確かめきれていないこと
氷河期の水を掘り出しているだけ
テキサス州南部の涵養がきわめて少なく、水位が下がり続けること
ネブラスカ州のように涵養が多く、水位がほとんど変わらない地域があること
編集部の考察
確認事実:ハイプレーンズ帯水層では開発前から2019年までに約1割の水が減り、テキサス州などで水位が大きく下がった。デビルズホールの水は、遠い地震のたびに大きく揺れる。
推論材料:USGSの水位の報告(2017年、2023年)とデビルズホールの解説(2012年)、NASAのGRACEの研究(2011年)、国立公園局の発表(2022年、2024年)、1976年の最高裁判決。
考察:「地下に大きな水の網がある」という印象は、半分正しく半分違う。岩はつながっていて地震の揺れを伝えるが、水の出入りは地域ごとの涵養とくみ上げで決まり、減り方は場所によってまったく違う。
弱点・反証:井戸の数には限りがあり、深い部分の構造や帯水層どうしの境目は推定に頼っている。衛星の観測は広い範囲の合計しか量れず、細かな場所の違いは分からない。
まだ解けていない問い
- 1
砂漠の洞窟の水は、どこまでつながっているのか
地震の揺れを伝えるほど岩はつながっているが、水そのものがどこまで行き来しているかは、深い部分でまだ確かめきれていない。
- 2
地下の水は、あとどれだけ残っているのか
ハイプレーンズ帯水層では2019年に約3.6兆立方メートルが残るが、テキサス州などでは局地的に使える水が尽きかけている場所もある。
- 3
くみ上げた水は、何年で元に戻るのか
テキサス州南部のように涵養がきわめて少ない地域では、人の時間の尺度では元に戻らないと考えられている。
デビルズホールの入口は、フェンスに囲まれた小さな割れ目にすぎない。見ただけでは、その下に深い水の世界があるとは分からない。
地下の水は、揺れたときと、減ったときにだけ、その姿を少し見せる。
Stan Shebs / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0政府機関の報告
- USGS, “Water-level and recoverable water in storage changes, High Plains aquifer, predevelopment to 2019 and 2017 to 2019”, SIR 2023-5143
- USGS, “Water-level and recoverable water in storage changes, High Plains aquifer, predevelopment to 2015 and 2013–15”, SIR 2017-5040
- USGS, Ground Water Atlas of the United States, HA 730-E, High Plains aquifer
- USGS Fact Sheet 2012-3021, “Devils Hole, Nevada—A Primer”
- USGS, “Location of maximum land subsidence in U.S. Levels at 1925 and 1977”
- National Park Service, Death Valley National Park, news release on the Devils Hole seiche, 2022-09-19
- National Park Service, Death Valley National Park, news release on the Devils Hole seiche, 2024-12-05
論文・判決
写真・資料クレジット
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USGS – from https://pubs.usgs.gov/sir/2017/5040/sir20175040.pdf / Wikimedia Commons / パブリックドメイン。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
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