はくちょう座の天の川と星々

タビー星の不規則な減光

惑星なら1%ほどしか暗くならないはずの星が、ある日、光の2割以上を失った。

Edoardo Dusina / Wikimedia Commons / CC BY 4.0

観測の概要

はくちょう座の方向、約1450光年先にある恒星KIC 8462852は、太陽より少し大きく熱いF型の星だ。NASAのケプラー宇宙望遠鏡は2009年から2013年までこの星を見続け、規則性のない深い減光を記録した。最も深いときには、明るさが約22%も落ちた。異常に気づいたのは市民科学の「プラネット・ハンターズ」のボランティアで、2016年に論文をまとめた天文学者タベサ・ボヤジャンの名から「タビー星」と呼ばれている。宇宙人の巨大構造物という説まで話題になったが、その後の観測は、ちりが光をさえぎっているという見方を強めた。

この観測の三つの謎

  1. 光をさえぎっているちりは、どこから来たのか
  2. この星は、100年単位でゆっくり暗くなっているのか
  3. 減光に周期はあるのか
名前
KIC 8462852(通称タビー星、ボヤジャン星)
場所
はくちょう座の方向、約1450光年先
最大の減光
約22%(2013年2月28日、ケプラーの記録)
最初の論文
ボヤジャンほか、英国王立天文学会月報、2016年

確定している事実

何が、いつ、どれだけ暗くなったか。争いのない観測記録から並べる。

ケプラー宇宙望遠鏡は、恒星の前を惑星が横切るときのわずかな減光を探すための望遠鏡だった。木星ほどの惑星でも、太陽に似た星の光を1%ほどしか減らさない。ところがKIC 8462852の記録には、2011年3月に約15%、2013年2月28日には約22%という深い減光が残っていた。しかも減り方の形も長さもばらばらで、惑星のように同じ間隔でくり返すこともなかった。

ケプラー宇宙望遠鏡が記録したタビー星の明るさの変化のグラフ
ケプラーが記録したタビー星の明るさ。横軸は観測日(日数)、縦軸は平常時を1とした明るさ。800日目ごろと1500日目以降に深い落ち込みがある / JohnPassos / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
星の種類
F型の主系列星(F3V)。太陽より少し大きく熱い
明るさ
約11.7等級。肉眼では見えない
観測した装置
NASAのケプラー宇宙望遠鏡(2009〜2013年)
減光の特徴
深さも長さも不ぞろいで、周期が見えない

観測の記録

一つの星の明るさを、宇宙と地上から何年も見続けた記録。

  1. 2009〜2013年
    ケプラーが見続けるはくちょう座からこと座にかけての空を、約4年にわたって記録した。
  2. 2011年3月5日
    約15%の減光最初の大きな落ち込み。後に「D800」と呼ばれる。
  3. 2013年2月28日
    約22%の減光記録の中で最も深い落ち込み。前後にも小さな減光が続いた。
  4. 2015年9月
    論文の公開ボヤジャンらが「光はどこへ行った?」という副題の論文を公開。翌2016年に学術誌に載った。
  5. 2016年
    寄付で観測時間を確保クラウドファンディングで10万ドル余りが集まり、ラスクンブレス天文台の望遠鏡網で1年分の観測ができるようになった。
  6. 2017年5月
    地上で減光をとらえる約2%の減光が起き、寄付者の投票で「エルシー」と名づけられた。9月までに減光が続いた。
論文の副題「Where’s the flux?(光はどこへ行った?)」の頭文字から、この星は研究者のあいだで「WTF星」とも呼ばれた。
チリのセロ・トロロにあるラスクンブレス天文台の口径1メートル望遠鏡
チリのセロ・トロロにあるラスクンブレス天文台の口径1メートル望遠鏡。この天文台網が、寄付で得た時間を使って2017年の減光をとらえた / CTIO/NOIRLab/NSF/AURA / Wikimedia Commons / CC BY 4.0

ここから謎になる

減光は数日の出来事だけではなかった。この星が、もっと長い時間をかけて暗くなっているのではないかという議論が始まった。

2016年、天文学者ブラッドリー・シェーファーは、ハーバード大学に残る古い写真乾板を調べ、この星が1890年から1989年までに100年あたり約0.16等級暗くなったと発表した。すぐに、乾板の測定誤差を見落としているという反論が出た。

100年で暗くなったとする論文

KIC 8462852は1890年から1989年まで、100年あたり平均0.165±0.013等級の割合で暗くなった
— シェーファー、『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』2016年(論文名の訳)
VS

暗くなっていないとする論文

写真乾板の数値化された等級の精度を、数十年の時間幅で統計的に分析する
— ヒプケほか、『アストロフィジカル・ジャーナル』2016年(論文名の前半の訳)
争点は星そのものより、100年前の写真乾板をどこまで信じてよいかにある。ただし、ケプラーの4年間に星が約3%暗くなったことは別の研究が示している。
はくちょう座とこと座にまたがるケプラー宇宙望遠鏡の観測範囲の星図N
四角の枠: ケプラーの42枚の検出器が写した範囲
はくちょう座とこと座の境目のあたりで、天の川の中
左下のデネブ、右のベガは夏の大三角の星
タビー星は11等級台で、この星図には描かれていない

見つけた人と、疑った人

計算機が見落とした異常を人の目が拾い、宇宙人説は検証すべき仮説として扱われた。

減光の形は、惑星探しの自動解析では拾われにくい。ケプラーの記録を目で見て確かめる市民科学のプロジェクト「プラネット・ハンターズ」のボランティアが、この星の光度曲線をおかしいと指摘した。当時イェール大学の研究員だったボヤジャンは、機器の故障やデータの傷も含めて一つずつ確かめ、どれでも説明できないと結論した。

ペンシルベニア州立大学の天文学者ジェイソン・ライトは2015年10月、この減光は、恒星の光を集める巨大な構造物の群れが見せるものと似ていると述べた。ライト自身、自然の説明をすべて調べ尽くしたあとで考えるべき可能性だとしていた。

ハットクリーク電波天文台に並ぶアレン・テレスコープ・アレイのアンテナ
カリフォルニア州ハットクリーク電波天文台のアレン・テレスコープ・アレイ(2008年撮影)。2015年10月、この電波望遠鏡群がタビー星の方向を調べたが、人工的な信号は見つからなかった / Kathleen Franklin from Marysville, CA, USA / Wikimedia Commons / CC BY 2.0

電波や光の短い点滅を探す観測もいくつか行われたが、知的生命の信号と言えるものは一つも出てこなかった。

宇宙人説を持ち出した研究者自身が、自然の説明を先に調べ尽くすべきだという立場だった。
打ち上げ前に吊り上げられるケプラー宇宙望遠鏡

色が答えを出した

不透明な壁なら、どの色の光も同じだけ隠す。2017年の減光は、そうではなかった。

打ち上げ前の整備施設で吊り上げられたケプラー宇宙望遠鏡。2009年3月に打ち上げられた / NASA/Troy Cryder / Wikimedia Commons / パブリックドメイン

観測値と検証

寄付で得た地上観測が、減光を色ごとに測った。

記録された数字

22%ケプラーが記録した最大の減光(2013年2月28日)
約3%ケプラーの4年間に星全体がゆっくり暗くなった量
10万ドル余り2016年のクラウドファンディングで集まった観測資金
2017年5月から9月にかけて地上で観測されたタビー星の減光のグラフ
2017年5月から9月にかけて、アリゾナ州の観測所でブルース・ゲアリーが記録したタビー星の明るさ。5月の「エルシー」を含む数回の減光が見える / Bruce Gary / Wikimedia Commons / CC0 1.0

2018年、ボヤジャンらは2017年の減光を色ごとに比べた結果を発表した。青い光ほど深く暗くなっていて、不透明な物体ではなく、細かいちりが光をさえぎっていると考えるのが自然だという結論だった。NASAの赤外線と紫外線の観測でも、長い時間をかけた減光に同じ色の傾向が見られた。

一方で、星のまわりにちりが多ければ、そのちりは温められて赤外線で光るはずだ。その余分な赤外線がはっきり見つかっていないことが、いまも説明を難しくしている。

説の対決

どの説にも、説明できることと、できないことがある。

01

壊れた彗星の群れ

説明できる

不規則な形の減光、色によって深さが違うこと、ちりが目立つ赤外線を出さないこと

説明できない

約22%も光をさえぎるほどの量が、なぜこの星のまわりにあるのか

02

壊れた衛星や惑星のかけら

説明できる

大きな天体の残骸から、ちりが長く出続けること。2019年の計算では、惑星からはがれた衛星がちりを出す筋書きが示された

説明できない

実際にそうした天体が壊れた証拠は、まだ見つかっていない

03

宇宙人の巨大構造物

説明できる

形のそろわない深い減光を、構造物の群れとして思い描けること

説明できない

減光が色によって違うこと。人工的な電波や光の信号も見つかっていない

編集部の考察

確認事実:ケプラーは2009年から2013年まで、KIC 8462852が最大約22%まで不規則に暗くなるのを記録した。2017年の地上観測では、青い光ほど深く暗くなる減光がとらえられた。

推論材料:ボヤジャンらの2016年と2018年の論文、シェーファーとヒプケらの写真乾板をめぐる論争、モンテとサイモンによるケプラー画像の再解析、SETIの電波観測。

考察:色による深さの違いは、光をさえぎるものがちりであることを強く示している。残る謎は「何がさえぎるか」より、「そのちりがどこから来て、なぜ赤外線で目立たないのか」に移った。

弱点・反証:ちりの出どころを直接見た観測はまだない。伴星の手がかりも統計的な確かさが低く、次の減光や周期の予測が当たるかどうかで確かめるしかない。

まだ解けていない問い

  • 1

    光をさえぎっているちりは、どこから来たのか

    ちりであることはほぼ固まったが、彗星の群れか、壊れた衛星や惑星のかけらかは決まっていない。

  • 2

    この星は、100年単位でゆっくり暗くなっているのか

    ケプラーの4年間に約3%暗くなったことは確かめられたが、100年単位の減光は写真乾板の誤差をめぐって決着していない。

  • 3

    減光に周期はあるのか

    約1574日の周期が提案され、2026年には伴星の周期の候補も出たが、予測された時期の減光がはっきり確かめられたわけではない。

赤外線と紫外線で見たタビー星

赤外線と紫外線の画像のなかで、タビー星は赤い四角に囲まれた小さな点にすぎない。見た目に変わったところは何もない。

謎は星の姿ではなく、光の減り方のなかにだけ残っている。

Infrared: IPAC/NASA Ultraviolet: STScI (NASA) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン

写真・資料クレジット

はくちょう座の天の川と星々

Edoardo Dusina / Wikimedia Commons / CC BY 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

ケプラー宇宙望遠鏡が記録したタビー星の明るさの変化のグラフ

JohnPassos / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

チリのセロ・トロロにあるラスクンブレス天文台の口径1メートル望遠鏡

CTIO/NOIRLab/NSF/AURA / Wikimedia Commons / CC BY 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

はくちょう座とこと座にまたがるケプラー宇宙望遠鏡の観測範囲の星図

NASA / Wikimedia Commons / パブリックドメイン。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

ハットクリーク電波天文台に並ぶアレン・テレスコープ・アレイのアンテナ

Kathleen Franklin from Marysville, CA, USA / Wikimedia Commons / CC BY 2.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

打ち上げ前に吊り上げられるケプラー宇宙望遠鏡

NASA/Troy Cryder / Wikimedia Commons / パブリックドメイン。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

2017年5月から9月にかけて地上で観測されたタビー星の減光のグラフ

Bruce Gary / Wikimedia Commons / CC0 1.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

赤外線と紫外線で見たタビー星

Infrared: IPAC/NASA Ultraviolet: STScI (NASA) / Wikimedia Commons / パブリックドメイン。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

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この記事を書いた人

世界の謎と不思議について、公開資料、研究論文、公文書、博物館資料、当時報道を読み比べ、記事の企画から公開後の訂正まで担当しています。 個人運営で、記事の企画、調査、執筆、画像確認、訂正・更新を担当しています。

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