
ASKAP J1745−5051 80分ごとの電波
パルサーなら数秒で回るはずの電波が、約80分に一度しか届かない。
Dave DeBoer, CSIRO / Wikimedia Commons / CC BY 3.0
観測の概要
宇宙から数分から数時間おきに強い電波が届く「長周期電波トランジェント」は、まだ十数例しか見つかっていない正体不明の信号だ。そのひとつ ASKAP J1745−5051 を、シドニー大学の博士課程の学生コヴィ・ローズらが、西オーストラリアの電波望遠鏡 ASKAP の掃天観測の中から見つけた。電波、可視光、X線の望遠鏡で追いかけた結果、白色矮星が相手の星から物質を引き込む連星だと分かった。電波とX線は約1.3時間の公転に合わせて繰り返し、2026年6月に学術誌 Nature Astronomy に報告された。ただし、電波がどこでどう作られるのか、ほかの例も同じ仕組みなのかは、まだ分かっていない。
この観測の三つの謎
- ほかの長周期電波トランジェントも、同じ白色矮星の連星なのか
- 電波とX線は、なぜ公転の中の別のタイミングで強まるのか
- 細く絞られた電波の束は、磁場のどこで作られているのか
- 周期
- 約1.3時間(約80分)ごとに電波とX線が強まる
- 正体
- 白色矮星が相手の星から物質を引き込む連星(磁場の強い激変星)
- 方向
- 南天のさいだん座
- 報告
- 2026年6月、学術誌 Nature Astronomy
確定している事実
何が、どこで、どの望遠鏡に見つかったか。争いのないことだけを先に並べる。
宇宙から規則正しく電波が届く天体として知られているのは、パルサーだ。高速で回る中性子星が、灯台のように電波の束を地球へ向ける。周期はふつう、1000分の1秒から数秒ほど。ところがこの天体の電波は、約1.3時間ごとにしか強まらない。
見つけたのは、シドニー大学の博士課程の学生コヴィ・ローズらのチームだ。ASKAP で空を広く調べた掃天観測(1.365ギガヘルツ)の中から、円偏波という偏った電波を出す天体を探していて、この天体に行き当たった。

- 名前
- ASKAP J1745−5051(論文では ASKAP J174508.9−505149)
- 見つけた望遠鏡
- ASKAP(西オーストラリア)
- 見つけ方
- 1.365GHz の掃天観測で、円偏波の電波源として
- 周期
- 約1.3時間。連星の公転周期と一致
観測の記録
一つの望遠鏡では、正体までは見えなかった。
- 掃天観測ASKAP1.365GHz の掃天観測で、円偏波の電波を出す天体として拾い上げる。
- 電波の追跡ATCA と MeerKAT周期、偏波、周波数の構造を調べる。
- 可視光SOAR とマゼラン望遠鏡スペクトルから、物質が流れ込む連星だと確かめる。
- X線スウィフト衛星とアインシュタイン・プローブ公転に合わせて明滅するX線を捉える。
- 2026年6月報告Nature Astronomy に論文が載り、シドニー大学が発表する。



ここから謎になる
電波とX線は、同じ連星から来ているのに、同じ時に強まらない。
電波の記録
電波は細く絞られた束になって届き、楕円偏波で、周波数が少しずつずれていく。数時間まるごと途切れることもある。— Rose et al., Nature Astronomy, 2026
X線の記録
X線は公転に合わせて明滅する。ただし強まるのは、電波とは公転の中の別のタイミングだ。— Rose et al., Nature Astronomy, 2026

白色矮星が、相手の星を削っていた
電波とX線は、同じ連星の別々の場所から来ているらしい。
白色矮星は、太陽のような星が一生を終えたあとに残る芯だ。地球ほどの大きさに、太陽に近い重さが詰まっている。この天体では、その白色矮星のすぐそばを小さな相手の星が回っていて、1周にかかる時間はわずか1時間あまり。近すぎるために、相手の星から物質が白色矮星へ引き込まれている。
電波のパルスの中には、幅およそ10メガヘルツの細い周波数の縞が見られた。連星でこうした構造が見つかっていたのは、これまで木星とその衛星イオの組だけだった。二つの天体の磁場がつながり合うときに生まれる電波と、よく似た仕組みが働いている可能性がある。

相手の星は、思ったより小さかった
発表から間もなく、別のチームが相手の正体をさらに絞り込んだ。
観測値と検証
数字が、この連星の姿を少しずつ具体的にしている。
連星の見積もり
シドニー大学の発表では、相手は太陽の10分の1ほどの重さの赤色矮星とされていた。その後クリスチャン・クニッゲらは、紫外線から赤外線までの光を分析し、相手の重さを太陽の約0.05倍、表面温度を約1800度と見積もった。恒星になりきれない、非常に軽い天体だ。
こうした激変星は、相手の星が物質を失うにつれて公転周期が縮み、ある最短の周期を過ぎると、逆に周期が延び始めると考えられている。クニッゲらは、この連星がすでにその折り返しを過ぎた「ピリオド・バウンサー」だとみている。
説の対決
どの説も、説明できることと、できないことがある。
白色矮星の連星
可視光のスペクトル、X線、公転周期に合わせた電波とX線。今回強く支持された
すべての長周期電波トランジェントが同じ仕組みかどうか
ゆっくり回る中性子星
強い磁場と、束になった電波
ここまで遅い回転で強い電波を出し続ける仕組み
複数の種類が混ざっている
例ごとに性質が違うこと
見つかっている数が少なく、まだ分類しきれないこと
編集部の考察
確認事実:約1.3時間ごとに電波とX線が強まる天体で、白色矮星が相手の星から物質を引き込む連星だと分かった。電波とX線は公転の別のタイミングで強まる。
推論材料:ASKAP の掃天観測、ATCA と MeerKAT の電波、SOAR とマゼラン望遠鏡のスペクトル、スウィフトとアインシュタイン・プローブのX線。クニッゲらの追加の分析。
考察:電波、X線、可視光、公転運動が一つの説明に収まった例として、次に似た信号が見つかったときに比べる物差しになる。
弱点・反証:一つの天体の答えが、十数例ある長周期電波トランジェント全体に当てはまるとは限らない。電波が作られる場所も、まだ推定の段階にある。
まだ解けていない問い
- 1
ほかの長周期電波トランジェントも、同じ白色矮星の連星なのか
見つかっている数が十数例と少なく、どれが白色矮星の連星で、どれが中性子星なのかを分けきれていない。
- 2
電波とX線は、なぜ公転の中の別のタイミングで強まるのか
X線は流れ込む物質から、電波は磁場がぶつかる場所から来ると考えられているが、その位置関係はまだ細かく決まっていない。
- 3
細く絞られた電波の束は、磁場のどこで作られているのか
木星とイオに似た周波数の縞が手がかりになっているが、磁場のどこで束が作られるのかは、まだ確かめられていない。
約80分ごとに届く電波は、遠い空で二つの星が近すぎる距離で互いを変え続けている証拠だった。正体の輪郭が見えた瞬間、次のもっと細かい謎が現れる。
正体不明の信号は、具体的な物理の謎に変わった。
Gronk Oz / Wikimedia Commons / CC0 1.0研究論文
- K. Rose et al., “Periodic radio and X-ray emission from an accreting white dwarf binary,” Nature Astronomy, 2026
- arXiv:2606.04232(上の論文の原稿)
- C. Knigge et al., “The Long-Period Radio Transient and Cataclysmic Variable ASKAP J1745-5051: Evidence for a 15,000 K White Dwarf and a Sub-Stellar Donor,” arXiv:2606.28993
報道・事典
写真・資料クレジット
Dave DeBoer, CSIRO / Wikimedia Commons / CC BY 3.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
Ant Schinckel, CSIRO / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
SKAO / Wikimedia Commons / CC BY 3.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/D. Munizaga / Wikimedia Commons / CC BY 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
David Smyth, CSIRO / Wikimedia Commons / CC BY 3.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
Till Credner / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
M. Garlick/University of Warwick/ESO / Wikimedia Commons / CC BY 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/T. Slovinský / Wikimedia Commons / CC BY 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)
Gronk Oz / Wikimedia Commons / CC0 1.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)