ウェストバージニア州の夜空と、黒く沈む丘の稜線

フラットウッズ・モンスター

懐中電灯の円の中に浮かんだのは、赤く丸い顔だった。翌朝の丘からは、破片一つ出てこなかった。

ForestWander / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0

観測の概要

1952年9月12日の夜、米国ウェストバージニア州の小さな町フラットウッズで、少年たちが丘の向こうへ落ちる光を見た。母親のキャスリーン・メイと州兵のユージーン・レモンらが丘に登ると、赤く脈打つ光と刺激臭の中、懐中電灯の光に背の高い人影が浮かんだ。同じ夜に現場を調べた保安官たちは、何も見ず、においもしなかったと報告した。証言は全国に広まったが、丘からは破片も物証も出ていない。いま怪物の姿は、町の入口の椅子と博物館に残っている。

この観測の三つの謎

  1. 約3メートルという大きさの証言は、何を見たものだったのか
  2. 吐き気や喉の腫れは、何が原因だったのか
  3. 翌日の地面の跡は、当夜の何かが残したものか
いつ
1952年9月12日、午後7時15分ごろ
どこで
ウェストバージニア州ブラクストン郡フラットウッズ、フィッシャーの農場の丘
だれが
キャスリーン・メイと息子たち、近所の少年、州兵ユージーン・レモンら7人
何を
落ちる光、脈打つ赤い光、背の高い人影、刺激臭

確定している事実

日付、場所、登った人たち。争いのないことだけを先に並べる。

1952年9月12日の夕方、フラットウッズの校庭で遊んでいた少年たちが、明るい光が空を走り、町外れの丘の向こうへ落ちていくのを見た。少年たちは母親のキャスリーン・メイに知らせ、一行は農場主G・ベイリー・フィッシャーの土地にある丘へ向かった。

フラットウッズの町の看板と怪物をかたどった椅子
いまのフラットウッズの入口。町の看板の横に、怪物をかたどった椅子が置かれている / Don Woods / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
日時
1952年9月12日、午後7時15分ごろ
場所
ブラクストン郡フラットウッズ、フィッシャーの農場の丘
登った人
キャスリーン・メイ、息子エドワードとフレッド、近所の少年たち、州兵ユージーン・レモン、犬
当夜の調査
保安官と保安官補。何も見ず、においもしなかったと報告

時刻と地点の対照

光を見てから丘を駆け下りるまで、出来事は短い時間に重なった。

19:15

校庭。少年たちが、丘の向こうへ落ちる光を見る

直後

メイ家。母親に知らせ、レモンと犬を連れて丘へ向かう

丘の上

赤く脈打つ光と刺激臭。懐中電灯の円に背の高い人影

同じ夜

保安官と保安官補が現場へ。何も見つからない

翌日には地元紙ブラクストン・デモクラットの記者A・リー・スチュワート・ジュニアが現場を調べた。事件は全国の新聞に載り、円盤の研究家たちが町を訪れた。
夜空を斜めに走る明るい火球(アリゾナ州キットピークで撮影)
夜空を斜めに走る明るい火球(アリゾナ州キットピークで撮影)。1952年の光の写真ではない / KPNO/NOIRLab/NSF/AURA/J. Dai / Wikimedia Commons / CC BY 4.0

ここから謎になる

同じ夜、同じ丘について、二つの報告がある。

丘に登った7人

丸く赤い顔を、先のとがったフードのような形が囲む、人のような姿を見た。
— 州兵ユージン・レモンの証言(英語版Wikipedia「Flatwoods monster」の引用から訳)
VS

現場を調べた保安官

何も見ず、何も聞かず、何のにおいもしなかった。
— 保安官と保安官補の報告(同)
保安官が着いたのは一行が逃げ帰ったあとで、同じ瞬間の記録ではない。

目撃のあと、何人かは吐き気を訴えた。キャスリーン・メイは、少年たちの顔に油のような膜が付き、喉が腫れたと語っている。医師が診たが、はっきりした原因は見つからなかった。

証言が描いた姿

証言が紙に移されるたび、怪物の輪郭ははっきりしていった。

UFO研究家グレイ・バーカーは目撃者から録音で話を聞き、翌1953年1月の雑誌『フェイト』に書いた。それは身長およそ3メートル、血のように赤い丸い顔で、頭はトランプのスペードのような形。目のような部分は緑がかった橙色に光り、胴には衣服のようなひだがあったという。

証言をもとに描かれたフラットウッズ・モンスターの想像図
証言をもとに後年描かれたフラットウッズ・モンスター。1952年当夜の写真ではない。右下の小さな影は人との大きさの比較 / Tim Bertelink / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
私たちが知る怪物の姿は、写真ではなく、聞き取りから生まれた。
フラットウッズ付近の州間高速79号線と、両側の緑の丘

翌朝の丘

何かが落ちたと皆が思った。だが、手に持てるものは出てこなかった。

フラットウッズ付近の州間高速79号線と、両側に続く緑の丘 / Famartin / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

観測値と検証

懐疑的な調査で知られるジョー・ニッケルは、2000年にこの事件を部品に分けて調べた。

ニッケルの検討(2000年)

3州同じ夜に流星が目撃された州の数
3つ現場付近から見えた赤い航空標識
約3m証言された人影の高さ

1952年9月12日の夜には、メリーランド、ペンシルベニア、ウェストバージニアの3州で流星が目撃されていた。ニッケルは、人影を枝にとまったメンフクロウとみた。懐中電灯に照らされると、丸い顔と光る目、広げた翼が浮かび上がる。

正面から見た飛ぶメンフクロウ
正面から見た飛ぶメンフクロウ。丸く白い顔と大きく広がる翼は、暗がりで照らされると人の顔と肩のようにも見える / Dannymoore1973 / Wikimedia Commons / CC0 1.0

翌日、記者スチュワートは地面の滑ったような跡と、ねばつく付着物を見つけた。ところが地元の少年マックス・ロッカードが、目撃のあとトラックで現場を走り回ったと認めている。跡がいつ付いたのかを、いまから切り分けることはできない。

怪物は町の顔になった

丘から降りた怪物は、いまは町の入口で旅行者を迎えている。

ブラクストン郡は怪物の姿をかたどった椅子を5脚作り、旅行者の目印にした。隣町スットンのメインストリートにはフラットウッズ・モンスター博物館があり、観光案内所も兼ねている。

フラットウッズ・モンスターをかたどった大きな椅子
フラットウッズの旅行者向けの椅子。赤い顔とスペード形の頭は、証言から生まれた怪物の姿をそのままなぞっている / Don Woods / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

町が怪物を楽しんでいるからといって、1952年の目撃が作り話だったとは言えない。丘を登った子どもたちにとって、あれは町おこしの物語ではなかった。

説の対決

どの説も、説明できることと、できないことがある。

01

流星と航空標識

説明できる

空を走った光が丘の向こうへ落ちたように見えたこと。脈打つような赤い光

説明できない

目撃者が赤い光を、すぐそばにある現場の一部として覚えていたこと

02

驚いたメンフクロウ

説明できる

丸い顔、光る目、急に動いたように見えたこと

説明できない

約3メートルという大きさの証言と、吐き気や喉の腫れ

03

空から来た未知の何か

説明できる

光、におい、人影を一つの出来事としてまとめて説明できること

説明できない

破片も物証も無く、同じ夜の保安官は何も見つけなかったこと

編集部の考察

確認事実:1952年9月12日の夜、7人が丘に登り、光と人影とにおいを証言した。同じ夜の保安官は何も見つけず、物証は残っていない。

推論材料:1953年のバーカーの記事、2000年のニッケルの検討、同じ夜の流星の目撃、少年がトラックで走ったという証言。

考察:火球は流星、赤い光は航空標識、顔はフクロウ、跡はトラックと、一つずつ分ければ事件はほぼ地上の材料で組み直せる。

弱点・反証:約3メートルという大きさと、体の不調の証言は、この説明ではうまく消えない。恐怖で大きさが膨らむことはあるが、それを確かめる方法はもう無い。

まだ解けていない問い

  • 1

    約3メートルという大きさの証言は、何を見たものだったのか

    フクロウ説は顔と目を説明するが、大きさの証言とは離れている。恐怖による見誤りか、別の何かか、確かめる手段は残っていない。

  • 2

    吐き気や喉の腫れは、何が原因だったのか

    医師は原因を見つけられず、においの正体も分かっていない。

  • 3

    翌日の地面の跡は、当夜の何かが残したものか

    トラックの跡と当夜の何かの跡を、いまから区別する方法は無い。

ウェストバージニア州スットンの目抜き通りと古いれんが造りの店並み

空を走った光は流星、赤い光は航空標識、顔はフクロウ、跡はトラック。それでも1952年9月12日の夜、7人が同じ丘を登り、同じ恐怖から逃げ帰ったことは変わらない。

問われているのは、空から何が来たかよりも、暗い丘で人が何を見てしまうのか、なのかもしれない。

Tim Kiser ( w:User:Malepheasant ) / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0

写真・資料クレジット

ウェストバージニア州の夜空と、黒く沈む丘の稜線

ForestWander / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

フラットウッズの町の看板と怪物をかたどった椅子

Don Woods / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

夜空を斜めに走る明るい火球(アリゾナ州キットピークで撮影)

KPNO/NOIRLab/NSF/AURA/J. Dai / Wikimedia Commons / CC BY 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

証言をもとに描かれたフラットウッズ・モンスターの想像図

Tim Bertelink / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

フラットウッズ付近の州間高速79号線と、両側の緑の丘

Famartin / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

正面から見た飛ぶメンフクロウ

Dannymoore1973 / Wikimedia Commons / CC0 1.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

フラットウッズ・モンスターをかたどった大きな椅子

Don Woods / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

ウェストバージニア州スットンの目抜き通りと古いれんが造りの店並み

Tim Kiser ( w:User:Malepheasant ) / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0。縮小(WordPress の縮小版を使用)。出典ページ(確認 2026-09-25)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

世界の謎と不思議について、公開資料、研究論文、公文書、博物館資料、当時報道を読み比べ、記事の企画から公開後の訂正まで担当しています。 個人運営で、記事の企画、調査、執筆、画像確認、訂正・更新を担当しています。

目次