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マルタのミスラ・ガール・イル=クビール付近に残る轍状の溝。岩盤の上で複数の線が向きを変えている。

マルタの轍岩を走ったもの

鉄のレールはない。あるのは、硬い岩に残る二本の溝。枝分かれし、並び直し、ときには行き先を見失う。

Diego Delso / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

遺跡の概要

マルタ島の岩盤には、車輪の通り道を思わせる平行な溝が残っている。カート・ラッツと呼ばれる轍状の遺構だ。線が複雑に集まる場所は、英国の鉄道の分岐点になぞらえてクラパム・ジャンクションとも呼ばれる。何を運び、いつ刻まれたかについては議論がある。最近の研究をたどると、硬い岩を削る仕組みと、採石場へ続く線が重要な手がかりになる。

この遺跡の三つの謎

  1. 硬い岩に、どうして車輪のような溝ができたのか?
  2. 溝は何を運び、どこへ向かっていたのか?
  3. すべてが同じ時代に作られた古代の道路なのか?
場所
マルタ島の複数の地点
特徴
岩盤に刻まれた平行な溝
有名な集中地
ミスラ・ガール・イル=クビール
争点
成因・用途・年代

確定している事実

白っぽい岩の地面を、二本の溝が伸びている。隣に別の組があり、途中で向きを変えたり、複雑に交わって見えたりする。鉄道の跡に見えても、枕木や鉄のレールが残っているわけではない。

マルタのカート・ラッツは、島の複数の場所で確認される轍状の溝だ。特に線が集まるミスラ・ガール・イル=クビールは、クラパム・ジャンクションという呼び名でも知られる。

マルタ大学の考古学者アンソニー・ボナンノは、浅い一組から複雑な集中地まで、溝の姿が多様であることを説明している。一本の道路が島中で同じ姿を保っている、という遺構ではない。

二本の線があることは見える。いつ何が通ったかは、別に調べる必要がある。カートという呼び名に答えを先取りさせず、岩の形と周辺へ目を向けたい。

マルタのミスラ・ガール・イル=クビール付近に残る轍状の溝。岩盤の上で複数の線が向きを変えている。
マルタのミスラ・ガール・イル=クビール付近に残る轍状の溝。岩盤の上で複数の線が向きを変えている。 / Diego Delso / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

路線図のように見える岩の上

溝の写真に線を重ねると、どこからどこへ向かうのかを追いたくなる。ところが、現在の地表だけではつながりが途切れる場所がある。土に隠れたのか、後の採石や地形の変化で失われたのかも検討しなければならない。

溝が分かれると、現代の鉄道のポイントを連想する。しかし、すべてを一度に計画した線路網と考える必要はない。同じ場所を違う時期に通れば、何本もの跡が重なることもある。

一見複雑な図が、最初から複雑に設計されたとは限らない。必要に応じて道を変え、隣へ移り、また使う。そうした繰り返しの仕事が、結果として迷路のような景色を作った可能性がある。

いわゆるクラパム・ジャンクションの溝を近くから見る。二本の筋、深さ、分岐の見え方を比較できる。
いわゆるクラパム・ジャンクションの溝を近くから見る。二本の筋、深さ、分岐の見え方を比較できる。 / Diego Delso / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

ここから謎になる——車輪は石を削れるのか

硬い岩に深い溝を見ると、木の車輪では無理だと感じるかもしれない。だが、石の硬さは乾いた一枚岩の印象だけで考えず、湿った状態や表面の風化も含めて調べる必要がある。

二〇〇八年、デレク・モッターズヘッドらは、地形学からカート・ラッツを検討した。研究は、湿った石灰岩の上を荷を載せた二輪の車が繰り返し通り、徐々に溝を作る可能性を示した。

溝が深くなり過ぎれば、車体の下が岩へ触れる。そうなれば別の線を通る必要が生じ、近くに多くの轍が残るという説明になる。研究が示したのは、形を作る仕組みの候補である。

一度の巨大な力ではなく、小さな摩耗の積み重ねかもしれない。実際に使った車両がそのまま発見されたわけではないが、岩だから車輪の跡ではあり得ない、という直感を試す研究にはなる。

線の先に、採石場がある

ボナンノが二〇二〇年の大学記事で強調したのは、轍と古い採石場の関係だ。彼は、多くの例が採石場と近接し、そこへ続いたり内部で終わったりすることに注目する。

もし石材を運ぶための道なら、硬い地面に重い荷が繰り返し通る理由ができる。巨石の謎を解く鍵が、別の巨石を運ぶ日々の作業だった可能性が出てくる。

ただし、採石場の近くにあるというだけで、全地点を同じ用途へまとめることはできない。道が先にあり、後に採石場ができた場合と、採石のために道ができた場合では、時間の順序が逆になる。

場所の近さを、出来事の順番へ変える証拠が必要だ。そこで、どの岩の面に溝が刻まれているかが重要になる。

いわゆるクラパム・ジャンクションの溝を近くから見る。二本の筋、深さ、分岐の見え方を比較できる。

道を作ったのか。使っていたら道になったのか。

同じ二本の溝でも、計画して削る仕事と、毎日通った結果では歴史が違う。

いわゆるクラパム・ジャンクションの溝を近くから見る。二本の筋、深さ、分岐の見え方を比較できる。 / Diego Delso / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

「すべて先史時代」という説明を見直す

マルタには著名な先史時代の遺跡がある。その印象から、轍もまとめて非常に古い時代へ置きたくなる。だが、同じ島に残る石の遺構が、すべて同時代とは限らない。

ボナンノは、タ・ドゥン・コンツという地点で、古典古代の採石場の底面に刻まれた轍を挙げる。この例では、少なくとも岩を切り出して面ができた後に溝が刻まれた、と順序を考えられる。

地面の下から古い物が出たというだけではない。何が何を切っているか、どの面の上に何があるかを見る。数字を直接測れなくても、前後関係が年代の範囲を絞ることがある。

この一例は、島中の轍がすべて後代だという証明でもない。一つの形に、異なる時代や用途の例が含まれる可能性を考えさせる。単一の「失われた文明の道路網」より、複数の仕事の跡が重なった景観として見る余地がある。

三つの説明を、溝の形へ戻してみる

01

車輪による運搬の跡

説明できる

平行な二本の溝と、繰り返す摩耗、採石場との関係を説明しやすい。

説明できない

車両の形や荷の種類、全地点の年代が一度に分かるわけではない。

02

そりなど別の運搬具の跡

説明できる

車輪では通りにくく見える線について、別の荷の動かし方を検討できる。

説明できない

具体的な構造と摩耗の仕方を示し、実際の幅や曲がり方に適合させる必要がある。

03

異なる時代の複数の道の重なり

説明できる

線の集中や地点差、採石との前後関係を一つの時代へ押し込めずに読める。

説明できない

各線をいつ誰が使ったかを分けるには、さらに現地の記録と調査が必要になる。

運んだものが消えると、道は暗号に見える

もし荷車も荷物も作業する人も写真に写っていたら、岩の溝は分かりやすい仕事の跡だったかもしれない。今は、それらが消えて、通った場所だけが地面に残る。

道の意味は、その先で行う仕事と結び付いている。採石場を見落とし、溝だけを切り取れば奇妙な記号になる。周辺を一緒に読むことで、図柄のような線が、人の往復へ戻っていく。

それでも、誰が何を運び、どこへ届けたかは尽くせない。岩の上に見えるのは、目的地を失った道ではなく、私たちがまだ目的地を読み切れていない道なのだろう。

編集部の考察

確認事実:平行な溝が複数地点に残り、採石場との関係や摩耗の仕組みが研究されている。

推論材料:石の性質、深さ、分岐、周囲の採石、面の前後関係を検討できる。

考察:編集部は、図のような線を作業の反復へ読み戻したい。毎日の往復が、運ぶ人の消えた後で巨大な謎になることがある。

弱点・反証:運搬説が有力な例があっても、全地点の用途と年代を一つに決める材料は足りない。

まだ解けていない問い

  • 1

    硬い岩に、どうして車輪のような溝ができたのか?

    荷を載せた車が湿った石灰岩を繰り返し通って摩耗させる仕組みが研究されている。すべての線の成因が確定したわけではない。

  • 2

    溝は何を運び、どこへ向かっていたのか?

    採石場との関係から石材運搬が重要な候補になるが、全区間の荷や目的地は分からない。

  • 3

    すべてが同じ時代に作られた古代の道路なのか?

    同じ時代と決められない。古典古代以降と考える手がかりのある例もあり、地点ごとの検討が必要になる。

マルタのミスラ・ガール・イル=クビール付近に残る轍状の溝。岩盤の上で複数の線が向きを変えている。

人は、運びたい物があるから道を通る。運び終えれば、荷物も人も次の場所へ行ってしまう。

マルタの岩は、その往復だけを覚えている。二本の線は、消えた仕事の続きへ、今も伸びている。

Diego Delso / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0

写真・資料クレジット

マルタのミスラ・ガール・イル=クビール付近に残る轍状の溝。岩盤の上で複数の線が向きを変えている。

Diego Delso / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0。横1920px以下の縮小版。表紙・写真扉は表示枠に合わせてトリミング。出典ページ(確認 2026-10-04)

いわゆるクラパム・ジャンクションの溝を近くから見る。二本の筋、深さ、分岐の見え方を比較できる。

Diego Delso / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0。横1920px以下の縮小版。表紙・写真扉は表示枠に合わせてトリミング。出典ページ(確認 2026-10-04)

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この記事を書いた人

世界の謎と不思議について、公開資料、研究論文、公文書、博物館資料、当時報道を読み比べ、記事の企画から公開後の訂正まで担当しています。 個人運営で、記事の企画、調査、執筆、画像確認、訂正・更新を担当しています。

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